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「なんでこんなに疲れるの?」 ~脳卒中後の省エネモードと疲れやすさの正体~

「少し歩いただけなのに疲れてしまう」

「買い物に行くと、その後は何もしたくなくなる」

「リハビリは頑張っているのに体力が戻らない」


脳卒中(脳梗塞/脳出血)を経験された方から、このような相談を受けることは少なくありません。


周囲から見ると元気そうに見えても、強い疲労感を感じている場合もあります。


実はこの疲れやすさは、単純な筋力低下や体力低下だけでは説明できないことが多くあります。


今回は脳卒中後の疲労感について、リハビリの視点からわかりやすくお話しします。


目次


脳卒中後の疲労とは?

脳卒中(脳梗塞/脳出血)後にみられる強い疲労感は、「脳卒中後疲労(Post-Stroke Fatigue)」と呼ばれています。


特徴としては、

  • 十分休んでも疲れが取れない

  • 少しの活動で疲れてしまう

  • 身体だけでなく頭も疲れる

  • 集中力が続かない

  • 午後になると急に疲れを感じる

などがあります。


実際、脳卒中(脳梗塞/脳出血)を経験された方の多くが疲労感を訴えることが知られており、生活の質(QOL)や社会参加にも大きく影響する症状の一つとされています。


そのため、

「歳のせいだから仕方ない」

「運動不足だから仕方ない」

「本人のやる気の問題」

ということで済ませるのは大変危険です。


筋力低下だけが原因ではない

疲れやすさを感じると、多くの方は、

「筋力が落ちたからだろう」

「体力がなくなったからだろう」

と考えます。


もちろんそれも原因の一つです。


脳卒中(脳梗塞/脳出血)後は入院や活動量の低下によって筋力や持久力が低下しやすくなります。


しかし、それだけでは説明できない疲労感もあります。

例えば、

  • 以前より歩けるようになったのに疲れる

  • 検査では体力が改善しているのに疲れる

  • 人混みや買い物で特に疲れる

といったケースです。


このような場合は、筋肉ではなく「脳の疲労」が関係している可能性があります。


私たちは普段、何気なく歩いたり会話したりしています。


しかし脳はその裏で、

  • 周囲の状況を確認する

  • 障害物を避ける

  • バランスを保つ

  • 会話を理解する

  • 次の行動を考える

など、多くの情報を同時に処理しています。


健康な方では、これらの作業の多くが自動的に行われています。


しかし脳卒中によって脳の一部が損傷すると、これまで無意識で行えていた作業にも意識的な努力が必要になることがあります。


つまり同じ「歩く」という動作でも、以前より多くのエネルギーを使っている可能性があるのです。


注意力の問題

脳卒中後には注意機能が低下することがあります。


注意機能とは、

  • 必要な情報に集中する

  • 複数のことを同時に行う

  • 周囲の変化に気付く

といった能力です。


例えばスーパーで買い物をするとき、

  • 商品を見る

  • 人を避ける

  • 買う物を思い出す

  • レジの順番を確認する

など、多くの情報を同時に処理しています。


健康な方にとっては当たり前の作業ですが、脳卒中後はこれらに大きな集中力が必要になることがあります。


その結果、

「買い物に行くだけでぐったりする」

「外出するとその日は何もできない」

ということが起こります。


これは身体ではなく、脳が疲れている状態かもしれません。


高次脳機能障害と疲労感の関係

脳卒中後には高次脳機能障害がみられることがあります。


例えば、

  • 注意障害

  • 記憶障害

  • 遂行機能障害

  • 半側空間無視

などです。


こうした症状があると、

「忘れないように意識する」

「見落とさないように注意する」

「段取りを考えながら行動する」

といった作業を常に行わなければなりません。


本人も気付かないうちに脳へ大きな負担がかかり、疲労が蓄積していることがあります。


オートマからマニュアルへ

私たちは通常、歩行や立ち上がりなどを無意識に行っています。


これは脳が動きを学習し、自動化しているためです。


しかし脳卒中後は、

  • 足の位置を確認する

  • バランスを意識する

  • 麻痺した手足を意識する

など、一つひとつの動作に注意が必要になることがあります。


例えるなら、健康な状態が「オートマ車」、脳卒中後が「マニュアル車」のようなものです。


同じ距離を運転しても、マニュアル車の方が疲れやすいように、脳卒中後は同じ活動でも脳が多くのエネルギーを消費している可能性があります。


脳が生み出す疲労感

近年の研究では、脳卒中後の疲労感には脳そのものの機能変化が関係している可能性が指摘されています。


脳は体重の約2%しかありませんが、全身のエネルギーの約20%を消費する非常に活動量の多い臓器です。


脳卒中によって脳の一部が損傷すると、これまで効率よく行えていた情報処理に余分なエネルギーが必要になることがあります。


また、脳の血流や神経活動の変化によって、脳がエネルギーを節約しようとする状態になることも考えられています。


例えば、眠気や疲労感に関わるアデノシンという物質は、脳に「少し休みましょう」というサインを送る働きを持っています


さらに、意欲ややる気、集中力に関わるドーパミンなどの神経伝達物質の働きも疲労感に影響すると考えられています。


そのため脳卒中後の疲労は、

  • 筋肉が疲れている

  • 体力が落ちている

だけではなく、脳が自ら活動量を抑えようとする「省エネモード」になっている状態とも考えることができます。


少し外出しただけで強い疲労感が出たり、人混みで極端に疲れたりするのは、身体よりも先に脳の処理能力が限界に近づいているサインかもしれません。


疲労に関わる脳内物質とは?
私たちが「疲れた」と感じるとき、その感覚には脳内のさまざまな物質が関わっています。
アデノシン
活動によって脳のエネルギーが使われるとアデノシンが増加し、脳に「そろそろ休みましょう」というサインを送ります。夜になると眠くなるのも、この働きの一つです。
ドーパミン・セロトニン・ノルアドレナリン(モノアミン系神経伝達物質)
ドーパミンは意欲ややる気、セロトニンは気分の安定、ノルアドレナリンは集中力や覚醒に関わっています。
これらの働きが低下すると、身体的な疲労だけでなく、「やる気が出ない」「集中できない」といった疲労感につながることがあります。
脳卒中後の疲労では、こうした脳内環境の変化も関係している可能性があると考えられています。

脳を元気に保つ方法

脳卒中後疲労には、体力の低下だけでなく、脳の働きや神経伝達物質の変化が関係している可能性があります。


もちろん、ドーパミンやセロトニンといった脳内物質を自分で直接コントロールすることはできません。


しかし、日常生活の中で脳が働きやすい環境を整えることはできます。


疲れやすいからといって活動量を極端に減らしてしまうと、体力だけでなく脳への刺激も少なくなり、さらに疲れやすさにつながることがあります。


無理のない範囲で活動を続けながら、脳を適度に刺激することが大切です。


適度な運動を続ける

ウォーキングや自主トレーニングなどの適度な運動は、体力の維持だけでなく、脳の働きにも良い影響を与えることが知られています。


運動によって脳への血流が促され、ドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質の働きが活性化すると考えられています。


特別な運動である必要はありません。


毎日の散歩や体操など、自分が続けられる運動を継続することが大切です。


朝の日光を浴びる

朝起きたらカーテンを開けて日光を浴びる習慣もおすすめです。


日光は体内時計を整えるだけでなく、睡眠や覚醒のリズムにも関係しています。


睡眠の質が改善すると、脳の疲労回復にもつながります。


北海道では冬場の日照時間が短くなりますが、6月から夏にかけては比較的日照時間が長くなるため、散歩を兼ねて外に出るのも良いでしょう。


人との交流を続ける

脳は人との会話やコミュニケーションでも活性化します。


家族との会話や趣味活動、地域の集まりへの参加などは、身体だけでなく脳への良い刺激になります。


脳卒中後は疲労感から外出を避けたくなることもありますが、無理のない範囲で人とのつながりを維持することも大切です。


小さな成功体験を積み重ねる

リハビリや運動は「できないこと」に目が向きがちです。


しかし、

  • 昨日より少し長く歩けた

  • 転ばずに買い物へ行けた

  • 自主トレを継続できた

といった小さな成功体験も大切な成果です。


こうした達成感は意欲の維持につながり、活動を継続する力になります。


疲労を減らすためには「休む」と「動く」の両方が大切

脳卒中後の疲労感があると、「疲れるからできるだけ動かないようにしよう」と考えてしまうことがあります。


しかし活動量を減らしすぎると、体力や筋力の低下だけでなく、脳への刺激も少なくなってしまいます。


一方で無理をしすぎれば、脳の省エネモードが強く働き、疲労感が増してしまうこともあります。


大切なのは、適切に休みながら、適切に活動すること。


疲れやすいから何もしないのではなく、自分の状態に合わせて運動や社会参加を続けることが、長期的には脳の健康維持にもつながります。


疲れやすいときの対策

① 疲れる前に休む

脳の疲労は、気合いや根性だけでは回復しません。


疲れてから休むのではなく、疲れる前に休むことが大切です。


特に視覚から入る情報や音などの情報を処理するだけでも脳は疲れてしまうことがあります。


アイマスクや耳栓などを使用し、外部からの情報を遮り休みやすい環境を作ることも大切です。


② 活動を分散する

一度にたくさんの活動を同時に行おうとすると集中力が分散し疲れやすくなってしまいます。


そのため時間を分けて活動を区切るなどの対策をし、疲れにくい活動方法を検討しましょう。


例えば、

  • 掃除は1時間だけする

  • この部屋に掃除機をかけるだけにする


というように「時間」や「場所」を限定するなど活動を分散することで疲労を軽減できます。


③ 睡眠や生活リズムを整える

睡眠不足は脳の疲労を強めます。


規則正しい生活を意識し、十分な休息を確保しましょう。


質の良い睡眠は脳の疲労感の回復だけでなく、脳の神経系の活性化にもつながると言われています。


疲れやすいからとお一人で悩まず、身体を休める方法やお身体の状態に合ったトレーニングを選ぶために専門家(理学療法士・作業療法士など)に相談してみましょう。




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